#01


第一話「魔法工房師、誕生ナノ!」
これが勝利の鍵だ「Effective Magical System」

 うーん…。どうやろうかなー? とナノカは馬車の中で少し考えをまとめた。
 依頼書には街の自警団も手をこまねいているほどで、どうやら裏幕がいるらしく、盗賊にしては組織的に動いているみたい。今のところスツーカの機転でヒーロースーツを送ったみたいだけど…良い知らせが無いからね。
 あ、スツーカは帝都にお留守番。テンザンもお留守番。二人仲良く工房の妖精さんになってもらってます。
「…ゃん、嬢ちゃん!」
「あ、おじちゃん」
「おじちゃんじゃないぜ、さぁついたぞ、ここが、デザスティアだ。俺は帰らせてもらうぜ……治安が酷いからな。あんたもそうだが余所者は、早く立ち去った方がいいぜよ」
「ありがとう、おじさん」ふと、空を見上げる。
 めずらしく雲が多く、太陽の光はここまで降りてきていない。
「でも私は大丈夫だから、それに逃げなれないんだ……思いを無駄にしないためにも」


 あなたの街の工房師ことナノカしか乗っていなかった馬車は帝都に引き返し、いまや砂煙の視界の悪さで見えなくなっている。「さて、なにしようかな……」
 そう呟くナノカは無駄に馬車を見送っていた訳ではない。街の現状把握に努めていたのだ。
 想像していたよりも街の状態はひどかった。
「まずは、拠点を決めないとねっ、今回はスツーカがいないけど、きちんとした宿とらないと……」
 そうしてナノカは、砂の街に入っていった。あのくまさんリュックを背負って。
 荒野の緊張感のあるデザスティアとは、不似合いな――しかしそれでいて、確固たる意志を感じるナノカであった。
「あ、やっぱり市長さんに会わないとね。そう何度も第一印象にインパクトはいらないもんね、あはは……わたしも工房師のはしくれだもの」
 すちゃり、と華麗なる衝撃―スプレンデイット・インパクト―を携える。
「スツーカがいないから、しっかりしないとねっ!」


 自警団は、スツーカからのアイテムが役に立たず、無気力になっていた。ナノカに辛く当たりながらも、そんなこんなで一ヶ月が経過する。
 街の自警団員も孤軍奮闘するナノカのがんばりに心を打たれ、ようやく盗賊との小競り合いに対応できるようになってきた。これもナノカがセキュリティインフラの整備を行った賜物。
 街の警備レベルに格差をつけ、治安レベルの低いところに盗賊を追い込み、確実に人数を減らしていく。
 そしてあのスーパーヒーロースーツの能力を引き出すオプションパーツをつけることで、デザスティアの治安はうなぎ上りに回復していった。
 しかし、それでもまだなお。盗賊の襲撃は収まらない。
「と……これは、相手も考えてきているね。それにこっちの誘導経路を抑えてきている?」
 今まで、相手方が逃げるときに取った経路と街の地図を重ねて見ている。
 ナノカが考案し実働している治安レベル調整は、街を区画に分けて犯罪件数の偏在確率を操作した上で、日毎に追いつめる箇所を変えていく。というような代物である。
 守る側にとってこれは難しいが、スーツの能力により、団員の力の平均化が実現できた。 この作戦だとたとえ弱すぎるポイントでも、悪党を捉えられるぐらいの技量は必要なのだ。
 しかし、ここ5日間、相手はその作戦の裏を突いてきていた。
 すなわち、誘導に乗らず、確固撃破に相手が回ったのだ。ナノカの作戦は全て想定したとおりに動くと、最大限の効果が生まれる。だが、相手の不規則な動きにはとことん弱い。
「やっぱり、盗賊の後ろになにかいるね」
 自警団室でナノカは考えている。
 そもそも自警団が手をこまねいている原因に、捕虜が掴まらないことにある。
 たとえ、捕まえて縄でがんじがらめにしても文字通り、白煙を出し消えてしまうのだ。それが例外なく相手がもっているため、情報をこちら側で引き出せなくなっている。
「あー、息抜きしよう! 部屋に籠もっていても閃かないよ!!」
 結局、ナノカがデザスティアに来てから、多少市民の安心感は生まれたものの、それはナノカに対する期待感であって、本当の意味の安らぎではない。盗賊の襲撃が終わるまでは。


 外を歩くと、砂漠の街にはめずらしい格好であるのか声をかけられる。巨大なハンマーを持つ少女があのナノカ・フランカ。噂じゃプロスペロの孫らしい――と街の人のもっぱらの噂。本人にその自覚は全くないが。
「相手の目的でも分かれば、少しは進展するんだけどなぁ……うーん」
 と、街を歩くその姿は年相応のものだが、考えていることはとてもとても物騒だったりする。
 歩いていると、物陰から声がかかる。
ナノカ・フランカだな? お命頂戴!」
「え、ちょ、っちょっと! なに?」
 後ろから急に声をかけられ、振り向きざまにバランスを崩してしまう。
 スプレンディットインパクトは遠くに転がり、ナノカは盛大に尻餅をついた。
「ひゃん!」
「多くは語らねぇ……ただ、あんたに少々恨みがある。それだけだっ」
 と見得を切るなり短剣を取り出し斬りつけてくる。
 ナノカは避けようとするが、思うように体が動かない。
 刹那、影が現れて、ナノカと相手の間に入りこんだ。そしてガキッ、とナノカの頭上で音がした。
「怪我はなさそうだね…安心した」
 逆光であまり姿は見えないが、ナノカはその声に安心した。
「てめぇ! 何者だ。そいつの知り合いか?」
「名乗るほどの者ではないが…そうだね友人……いや彼女さ」
 
 ぶばっ! 盛大な鼻血をだしてナノカはぶっ倒れた。
 何か砂漠だというのに春まっ盛りな映像でも流れたのだろうか。ナノカは気を失った。
「ナノカを倒すのなら、私からだ。なめてかかってきて…私はかまわないから」
薄れる意識の中、『あれ? でもなんでラファルーがいるんだろう……』と思うナノカであった。
「気がついたかい?」
 と、ラファルーの顔が目の前にあった。無意識にナノカの顔がほてる
 そんな狼狽する様子にも気がつかないようにラファルーは優しく話しかける。
「ナノカはすごいね…なにもしていなくても人が集まってくる。それもすごい才能だね」
「?」
「あぁ、あの盗賊にはE―キャンセラーがついていてね。僕の攻撃が……打撃を含めてだけど、全く効かなくて」
 ラファルーはたまにだけど話が天然気味にひょいひょい飛ぶ。
「理由を問いただしたら、朗々と自慢話をするもんだから…そこにいる彼女が」
 ひょこと物陰から小柄な少女が現れた。
「私が気絶するくらいの魔法をぶつけたらノビちゃうのだもの。魔法防御も備えているかと思ったのに、期待はずれ。はい。手だして」
 見かけの割に、言葉使いが年相応じゃないなぁ…とか考えていると。不意にはいと、ナノカにタリスマンを渡す。
「え?」
「これが、E―キャンセラー。その子は触れないみたいだから私がとってきたわ」
 申し訳なさそうに肩を落とすラファルー。
「ありがとう。えっと……」
ラプターよ。見てわからないかもしれないけど、魔導士のはしくれ」
 ナノカと比べても背丈が低いので、上目使い気味になっている。
「私はナノカ・フランカ。ちょっと忙しい何でも屋ですっ」

 その二人が盗賊から聞き出した情報によると、やはり組織で動いていて、皆ナノカのことを快く思っていないらしい。詳しくはよくわからないが、現市長ともめ事を起こしているみたい。そして、その組織全員がこのE―キャンセラーを持っていること。ラファルーが触れられないのも、デザスティアに設置したセンサーにも反応しないのも、これが原因。
 これがあるとナノカもラファルーも普通の少女でしかない。
ラプターちゃん?」
「呼び捨てで良いわよ。私もナノカって呼ぶから」
「あのー、知り合ってばかりで恐縮だけど……ラプター、私と盗賊退治に出かけない?」
 と、いきなり相談を持ちかけた。スツーカがいれば「全くこれだから…」と天を仰ぐに違いない。
 ナノカは治安回復の方法も、大分手詰まりの感になっていること。それを私が任されていること。あとE―キャンセラーがあると仕事が終わらないこととかを話した。もちろん自分が工房士であることも。ラプターも成り行きだけど関わってしまったのだし、いいわよ。と思いの外、快諾してくれた。
 ただ、条件があると言う。オリハルコンを作ってほしい。E―テクにも使われているそれは魔法の触媒になるらしく、
「いくらあっても足りないのよね。それに決して安い物ではないし」
「いいよ。でも一度帝都に戻らないと材料がないから作れないけれど。街に出たらすぐに作るから」
「OK。交渉成立ね」
「うん。よろしく。でね早速なんだけど私の設置したレーダーに反応しない場所があるの。行ってみようと思うけど、良いかな?」
「ええ、そのあたりは任せるわ。私は魔砲を撃つ係ということで」


 その場所に向かっているとナノカが、不意にラファルーに話しかけた。
「ラファルー、今は何してたの?」
「ん、旅だよ。旅はいろいろ知ることも多い。さっきみたいな偶然も多いから、楽しくてね」
「ラファルーって言ったっけ? その感じだと学校は言ったことなさそうだけど…」
「そうだね、行ったことないな…ナノカもアカデミーで勉強しているね」
「え? アカデミー!? まさか帝都の?」
 とラプターが身を乗り出して来た。
「うん。そうだよ? もうすぐ……えーと高等教育ってあったっけ。それが終わるけど?」
「早いのね〜あなた。流石はプロスペロのお孫さんはすごいわね」
 ラプターの言葉には、あまり皮肉めいていないのがナノカには心地よかった。
「ありがとう。でも特別な扱いはないよ。アカデミーだもん」
 ナノカはあの学習制度を思い出しながら、苦笑いを浮かべ暗い気持ちでレーダーをみる。あまり良い思い出はなさそうだ。
「って、そろそろだよ。気をつけてね」
「うん、岩しかあたりには無いけど…他に怪しいの、」
 と、ラファルーが倒れた。足下には転ぶような物も足を取られるような物も無い。
 急に動きが止まって、その歩く勢いのまま前に突っ伏してしまった。
「ラファルー平気? ってインパクトがおもい……」
 ナノカが駆け寄るが、背中のスプレンディットインパクトが突如重くなった。ぐらりと重心を崩し仰向けに倒れそうになる。
「ナノカっ!」
 と小柄なラプターが背中を支える。なんとか二人とも砂まみれになることは避けられた。
 そして、スプレンディットインパクトもいつもの重さを感じさせないくらいの状態に戻っている。
「これは…結界?」
「何?」
「一定範囲の指定したものの動きを無効化したりするものだけど…とにかくラファルーをこっちに運びましょう。話はそれから」


 えいやえいやと、ラファルーを引きずって、日を遮れる岩場に陣取った。
「結界とすればだけど、そう仮定して話を進めるわね」
神妙に頷く二人。
「おそらくだけど、状況から見てこの結界はE―キャンセラーの付加がかかっていると思うわ」
「そっか、それで重くなったんだ」
「そうなの? ま、それでレーダーにも映らないかったのもそれが原因ね」
「では、どうやって入るんだ?」とラファルー。
「ためしに…魔法を使ってみたのだけど、これが問題なく使えそうなの」
と言って、遠くの木を指差す。それだけが黒く焼かれている。もちろん結界の内側だ。
「こんな感じに魔法は使える。というのもだいたい一つの事柄に関してしか結界は張れない。複数条件が設定されているとこの位の範囲になると金剛賢者でも難しいわね」
「と言うことは……E―テクはだめでも……魔法なら平気? だったら!」
 ナノカのおでこのあたりに、きらりと閃いたのが見えたような気がする。
「ねぇ、ラプター。あなたも学校に行っているんだよね?」
「正確には魔導院だけど、似たようなものね。それがどうかした?」
「ううん、ただね。あなたの魔法が私の工房術に組み込めるかもしれないんだ。もしかしたら使えるかも…魔法大系があるのなら、それは学問」
 それなら理解できるとナノカはいう。
「私の工房術は、系があって、しっかり、そして柔軟に規格化されているの。それをE―テクに組みこめば、私もラファルーも使えるって訳」
「なるほどね」
「手間じゃなかったら、教えてくれないかな」
「そうね、ナノカになら、その杖があるものね」と意味ありげな視線を送った。
「いいわよ。そんなに手間じゃないからここで教えるわね」
 ふと周りを見ながら、
「近くには水もあることだし」
「? 水が関係あるの?」
「まねー。言葉で伝えるといろいろ誤差が出るの。だからナノカの頭の中に直接、魔術大系を送り込む。
その媒介に水が必要なの」
「でもそんなに大層な準備は要らないし、この天気だもの。心配無用」
 と、二人は膝くらいまで、水に浸かる。服は着ているが下は裸足だ。
「わたしはどうしてたらいいのかな?」
 ラプターの正面に立ち、両手は暇そうに空中を遊んでいる。
 ナノカの胸の前あたりにラプターの顔がある。
「うんと、盛大に頭から水をかぶって」ざぱぁと景気よく池の水を頭からかける
「気持ちいい〜♪ こんな感じかな? あとは」
「そのままでいいよ。心を落ち着ける感じで……そうそう精神統一、明鏡止水だよ」
 と、ラプターの両手がナノカの両手を軽く握る。右手と左手それぞれが互いになるように。
 するとナノカの頭に、それはそれは膨大な情報が流れ込んでくる。遥か古代の魔力の発祥から現在の魔導の進化と変遷の歴史。それがヒトの脳の処理能力ぎりぎりのペースで絶え間なく続く。ナノカは、すこし苦しげな表情を浮かべる。
 ラプターが手を離すと同時にそのイメージも、ぷつんと切れる。
 軽く手を額に当てて考えるヒトの格好で熟考している
「えーと……うんうん。な〜るほどね、やたっ、一行理解できた!」
 満面の爽やかな笑みで、二人の方を向いた。
「思いついたよ! 工房でできるくらいだから、一度デザスティアに戻ろう!」
『了解、天才工房師さん』


 3日後。
「できたー! 名づけて、エフェクティブ・マジカル・システム! 略称はE.M.Sだよっ!」
 工房に引きこもること六十時間。系の違う魔法とE―テクを融合させ、その上メンテナンスフリーで今なら携帯も便利でズバリこの値段! となんとも便利な代物ができあがった。
「じゃあ、ラファルーこれをライトの接続端子のところに……うん、そうそうこれはモジュールだから……」
 ラファルーの右腕をとり、そこにEMSモジュールを挿す。
 結界内では総てのE―テクを無効化されるので、E―テクのコアを魔法でコーティングすることを最優先に。そして個人に合わせた形でシステムを生成させた。
 ラファルーには追加・書き換え型ラファルーの高純度オリハルコンからE―テクエネルギーを取り出しそれを魔力に変換するコンバータをモジュールの形で追加した。
 ナノカには、E―テクのエネルギーを魔力に置き換えて、スプレンディットインパクトから放出する魔砲少女。ナノカ自身は供給源がないため、スプレンディットインパクトに接続する魔力が圧縮されたカートリッジを持つ。ついでにナノカが好きな魔法少女の影響のためかスプレンディットインパクト自体も少しデザインが異なっている。
「趣味じゃないの、それは…」
 というラプターにに、
「魔力回路の最適化のためだよ〜〜」
 にやけた顔でまるで説得力のない言い訳をする。
「それじゃあ、気を取り直して盗賊退治に出発〜」


 しかし思いの外らくらくと粉砕。あまり魔法の力は要らなかった。結界だけで、中の幹部達が魔術師ではなかったのだ。
 もう魔法は使うこと無いけれど、ラファルーは気に入った様子。
「ナノカがくれたものだからね…………大切にするよ」
 そんな噂はあっという間に砂漠の国を拡がり、ものの数日で帝都に届いた。
 ――いたいけな少女が秘密結社を壊滅させたと。


 ここに魔法少女の歴史にどこかで見たよーなページが書きこまれた。


 魔法工房師の誕生である。













#1 END.
#2 「学生巫女の発現ナノ!」
これが勝利の鍵だ! アカデミー昇格制度[Skill of all,Money of none.]

「私、こう見えて修行中の身。そうみえるかしら」
 えぇ、そりゃもう。無理して大人びている感じとか、ばりばりに。とは二人は言わずにおいた。
 

 とここは、デザスティアから帝都へ向かう馬車の中。
 聞けばラプター。旅の途中らしい。
 デザスティアを抜け、E-テクで栄えている帝都を経由し、海の宝石トリスティアに向かうと言う。帝都から見て東方から遠路はるばるきたそうだ。
トリスティアかぁ…懐かしいね、ナノカ」そうだねと相槌を打つ。
 あまり詳しいことも言えないので、うん、まぁ知り合いが居てね、と誤魔化しておいた。いきなり私が復興させたんだよ〜なんて信じてはもらえないだろうし。
「魔導協会の決まり事でね……見聞を広げるために世界各地に修行に出されるの」
「それで、どうしてトリスティアに、なったんだい?」
 急に遠くを見つめるラプター。その瞳には力がない。
「あぁ…それはね。会長の投げた矢が、帝都から少しはずれて、帝都じゃなくそこに刺さったからよ」
 会長、丁度投げるときに、くしゃみなんてするから……と聞こえない独り言を出す。
「まぁ、行くところそれぞれに良いものがある。望み通りのものしか得られない人生の方がつまらないと、ぼくは思うけど」
「うん、もう開き直っているわ。ただ、決め方だけがね…ふふっ、あの時の会長の顔と言ったら
……ダーツで、ぽにゃなんて……」


 今回、ナノカがデザスティアにいたのは。この街の治安の回復である。それも終わりこうして帰路についている。
 トリスティアネオスフィアのような大規模な依頼というのもあるが、たまにこういう依頼も入ってくる。工房を置くほどではないので、自警団の一室を間借りしていたのだ。依頼が完了したので片付けてこうして馬車に乗っているわけだが。


 ナノカはプロスペロの孫娘であると同時に、アカデミーの学生でもある。もちろん実地で単位は認められるものの、パナピアが言った一言
「ナノカ、あなた出席日数たりている?」
 どうにも気にかかっていた。実習による単位互換はされるものの2/3の日数しか換算されない。
 アカデミーはそのブランド故、例外は誰一人として認められないのである。
 実習を積むことで学校にはない、いろいろ良いことがあるので、そこはシビアだ。
 毎年、大金を積み、泣きすがる生徒が必ずいる。
 しかし、アカデミーは一蹴する。
 食事や寮など、追加金を支払えばどうにかなるところもあるが、学業に関することはありとあらゆる手だては無効である。
 たとえそれが、プロスペロの孫でも、財閥のお嬢様でも、学長の家内であってもだ。
 能力第一主義。それがアカデミーのアイデンティティになっている。
 場所は変わり、ここは帝都、そのほぼ中心に位置するアカデミー。
 E-テクの最先端を日進月歩で進むこの場所で、ネネ・ハンプテンは学業にいそしんでいた。
 むろん遅れた分を取り戻すためである。
 2年間のブランクは、いくら特待生とはいえなかなか厳しいものだ。
 連日、朝早くから夜遅くまで、がっちりみっちりカリキュラムをこなす。
 栄養分など、財力でなんとかなるサポートは十分になされているが、彼女に言わせると
「まずしくても…いえ、経済的なナノカさんの手料理が一番ですわ」
 ナノカの料理は、その…たまにだが、野性的な……何というか、とても…土の味がする。
 そんなネネの知らないところで、ナノカは帝都に着いた。
「じゃあ、私の寮に行こうか。スツーカも待っているし」
 と二人を招待する。